先日、現役のひとり情シスが家に遊びに来てくれました。目的は、私の家の修理です。ひとり情シスの人たちは、本当に何でもできる人が多いです。特にDIY関係は得意で、仕事でも何でも果敢に取り組んでいるため、幅広い知識と経験を持っています。

私はてっきり、「さすがひとり情シスだから、事前に環境を綿密に調査して、WBSを作成してから着手するんだろうな」と思っていました。ところが、あまり確認もせずにどんどん作業を進めていくのです。恐る恐る聞いてみると、こんな言葉が返ってきました。

「悩んでいたら、まずやってみることです」

本人なりに最低限のリスク管理はしているのでしょうが、多少わからない領域でも、迷わず飛び込んでいく。そういうスタイルなのだと感じました。確かに、ひとり情シスは日々さまざまな業務を抱え、緊急の割り込み対応をこなしながら仕事をしています。すべてを完璧に把握する時間など、そもそもありません。だから、家の修理でも迷わず手を動かせるのかもしれない——そう考えながら、この状態をうまく言語化できないかと思っていました。

そんなとき、蔵書の断捨離をしていてアンゾフの『企業戦略論』を手に取ったところ、ぴったりの言葉を見つけました。それが、「部分的無知(Partial Ignorance)」です。アンゾフの戦略論における「部分的無知」とは、次のように定義されています。

「意思決定者が将来の事態に対して完全に無知ではないものの、完全な情報や予測を持つこともできない状態。企業の戦略的な意思決定は、すべてこの「部分的無知」の条件下で行われる」

これは、まさにひとり情シスの日常そのものではないでしょうか。日進月歩で変化するIT技術のトレンド、将来の社内ニーズ、導入したシステムへの現場の反応——これらを事前に完全に予測することは、どう頑張っても不可能です。

この「部分的無知」という前提に立ったとき、ひとり情シスはどのようなアプローチを取るべきか。書籍をもとに、3つのポイントを整理してみました。

1. 適応的探求(スモールスタートと段階的な見直し)

アンゾフは、部分的無知に対処するための手法として「適応的探求手法」を提唱しています。これは最初から詳細な決定を下すのではなく、大まかな決定から始め、情報が増えるにつれて段階的に見直し(フィードバック)を行いながら進める方法です。ひとり情シスの場合、最初から全社規模の巨大なシステムを完璧に設計・導入しようとするのは危険です。まずは必要最小限の機能を持つシステム(実用最小限の製品:MVP)を導入し、現場のフィードバックを得ながら段階的に拡張・改善していくアプローチが適しています。

2. 現場との対話と「検証による学び」

資料では、顧客(社内システムの場合は従業員)自身も、実際に使ってみるまでは「自分が何を望んでいるのかよく分かっていない」ことが多いと指摘されています。そのため、ひとり情シスは机上の計画に時間をかけすぎるのではなく、「構築・計測・学習」のフィードバックループを素早く回すことが求められます。実際にシステムを使ってもらい、想定通りの効果が出ているかを検証し、もし当初の仮説が間違っていた場合は、固執せずに柔軟に方向転換(ピボット)する決断力が必要です。

3. 予測不能な事態に備える「弾力性」の確保

将来予測できない事態(予期せぬシステムトラブルや、経営方針の急変など)が必ず起こることを前提に、企業目的の中に「弾力性目的」を持たせることが重要だとされています。ひとり情シスはリソースが1人しかいないため、ガチガチに作り込まれたシステムや硬直化した運用ルールを抱え込むと、不測の事態に対処できなくなります。クラウドサービスを活用して状況に応じて柔軟に構成を変更できるようにしたり、代替手段を常に用意しておくなど、システムと業務プロセスに「弾力性(柔軟性)」を持たせることが、リスク管理の観点から不可欠です。

まとめ

ひとり情シスの仕事は、「将来のニーズや技術変化を完全には予測できない(部分的無知)」という前提に立つ必要があります。だからこそ、完璧な計画を目指すのではなく、「スモールスタートで現場の反応を見ながら軌道修正する(適応的探求・検証による学び)」ことと、「不測の事態に耐えられる柔軟なシステム環境を維持する(弾力性の確保)」ことが、ひとり情シスの最も重要な戦略となることが再確認できました。ひとり情シスが意識してやっているかどうかわかりませんが(笑)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です